光と雪と

yosuke0araki2003-12-14

 私は、最近の純文学系の小説を読むことが多いけれども、その中で宮本輝の「螢川」、南木佳士の「ダイヤモンドダスト」、辻仁成の「海峡の光」が特に好きだ。
 「螢川」は、富山市内を流れるイタチ川を舞台にした昭和53年の作品だ。ほのかな恋や身近な人の死を経験する中で成長する小学生を妖しい蛍の光を背景に描く。小2から中1までイタチ川の側に住んでいた私には人ごとには感じられない。
 「ダイヤモンドダスト」は、信州の病院を舞台にした平成元年の作品だ。看護士が見届ける幾つもの死、そして死を迎える人生の重み。そういったものが、ダイヤモンドダストの煌めきに昇華している。
 「海峡の光」は、函館の刑務所を舞台にした平成8年の作品だ。テーマは、いじめ。刑務官としてかつてのいじめっ子と再会した動揺する心と、連絡船の廃止で荒んだ人間関係がもどかしい。読後に不快感が残る。でも、そんな心とは対照的に津軽海峡に差す陽光は美しい。
 いずれの作品でも、光が大きな役割を果たしている。しかし私は、雪の演出に大きな意味を感じた。北陸の雪はじっとりと重たく、少年の心にのしかかる。マイナス20度以下でないとできないダイヤモンドダストは、脆く儚く乾いている。飄々と受け入れるしかない人間の生死を暗示している。「海峡の光」でも、中盤の雪の日に元上司と遭遇する場面が、主人公の光を見るまでの苦しみを象徴している。
 日本の現代文学が、古典や外国文学と異なるのは、読みやすい言葉で書かれているということだけではない。時間的にも空間的にも作者と読者の距離が近いから、読者は自分の体験に根ざした作品の楽しみ方ができるということがある。光と雪を通して作品を楽しむのは、私のアプローチ。ナンバーワンではなくてオンリーワンな読み方だと思う。