純愛、不治の病、死。

yosuke0araki2004-01-04

 あけましておめでとうございます。本年も皆様にとってよい年でありますように。
 さて、毎週更新といいながらしばらく管理をさぼっていた私は年末年始、イギリスへ行っていました。ロンドンを基点に、北はスコットランドインヴァネス、西はアイルランドのダブリンまでといろいろ楽しんできたわけですが、この話は余韻が冷めてから、おいおい回顧したいと思います。

 さて。去年のレコード大賞は、浜崎あゆみが3年連続受賞となったが、Jポップの女性ボーカルで最もヒットした新人は、「明日への扉」I wishの川嶋あいと、「月のしずく」RUIこと柴崎こうだろう。今年はこの二人が、映画で直接対決する。
 川嶋あいは、「Deep Love」の主題歌を担当する。柴崎こうは、自らの対談をヒットのきっかけにした「世界の中心で、愛をさけぶ。」で主演する。
 この二つの映画は去年の二大ヒット小説でもある。「Deep Love」は、ケータイ発で女子高生の話題を呼んだ。かたや「世界の中心で」は文学界新人賞受賞といういわば、純文学の本流で地味な執筆活動をしていた作者による。このように、一見対照的な両作品だが、その本質となるキーワードは実は共通していた。それは、純愛・不治の病・死。小説のカラーは異なるのにストーリー展開は驚くほど類似している。
 この小説の必勝パターンともいうべきものの歴史は古い。私の知る限りでは源氏物語以来ということになる。
  源氏物語というとプレーボーイ光源氏の恋愛遍歴を連想する人が多いだろう。そこには複数の女性との関係も同時に進行し、純愛とはほど遠いイメージがある。
 しかし、この長編を光源氏よりも紫の上に焦点を当てて読み解くと別の解釈が見える。多くの恋愛を経てきた源氏が最後にたどり着いた理想の女性が紫の上。数多くの恋愛は、紫の上と出会うためにあったともいえる。そして物語のハイライトは、女三宮の降嫁する若菜の巻から源氏の死を連想させる雲隠の巻までになるだろうが、ここでは一貫して病の床に伏した紫の上とそれを気遣う源氏の姿が描かれている。そして、紫の上の死を以て実質的に光源氏の物語は終わるのである。そういう視点でみるとき、宇治十帖も紫の上の物語の余韻を持つ。

 私は昨年ヒットした二大小説にこれだけの奥深さがあるかどうかを考える。「Deep Love」は論外。「世界の中心で」にしても、ただ愛をさけぶだけで、作者はそれがエロスの愛なのかアガペーの愛なのかすら示していない。単純だから大衆受けするのかもしれないが、今一度 源氏物語の深い愛の意味を考えて、愛のテーマを提示してほしい。