J文学,綿矢りさ

yosuke0araki2004-01-11

  芥川賞候補作が発表された。候補5作のうち、19・20歳の女性が3人というのが異例で話題を集めている。選考は今月15日。結果によっては、さらに大きな反響を呼ぶ事になりそうだ。
 私が最も注目するのは綿矢りさ。処女作「インストール」が文芸賞を受けて大ヒットしたのは2年前だけれども、当時は17歳の現役女子高生で、しかもかなりの美少女だったことが注目された最大の要因だったろう。確かに綿矢りさは、映画で主演する上戸彩よりも明らかにキレイだ。一芸入試で早稲田いくよりも、女優を兼業した方が良かったと思うほど。しかし、私には「インストール」には物足りなかった。
 例えば、主人公が「世間ではもてはやされる女子高生なのに、私は何でこんなことしてるんだろう」と独白する場面。作者の言いたいことは分かるが、世俗的な価値観をそのまま小説に持ち込むのはタブーだと思う。背景を精密に描く事によって、婉曲してニュアンスを伝える必要があるのだ。それができないところに、若い彼女の未熟を感じていた。
 今回の候補作「蹴りたい背中」は違う。話の運びも自然だし、オタク「にな川」も読者が身近な変人に置きかえれるほど、具体的に描写されている。誰もがもっている内心の妖しさを抉り出しながらも、文章はみずみずしく、過去の芥川賞作品と比べても遜色はない。2年間で人はこれだけ成長できるのかと思えるような作品である。
 もちろん不満な点もある。オタクでもない「私」がなぜ友達ができないのか謎のままなのだ。読者の私は、きっとブスなんだろうなあと想像してみる。でも本のカバーにある作者綿矢りさのカラー写真を見ると、それは吹っ飛んでしまう。綿矢さん、ブサイクな描写が自分のルックスに負けているようじゃ、まだまだですよ。

  今回の芥川賞候補のもう一つの特徴は、主要な雑誌の掲載作が勢ぞろいしたことだろう。つまり文芸春秋社の「文学界」、講談社の「群像」、新潮社の「新潮」、集英社の「すばる」、河出書房の「文芸」から1作づつとなった。96年に福武書店の「海燕」が廃刊になって以来の5誌体制が試されているともいえる。
 いざ受賞作となると近年は、「文学界」の独壇場だった。他誌も候補作とはなるが、ここ数年は受賞がない。
 芥川賞は、実質的に文芸春秋社が主催する賞であるから、この結果はある程度やむを得ないと見る向きもある。しかし、芥川賞は出版社の主宰とはいえ三島賞などと異なり誰もが認める純文学の頂点である。選考委員には、ぜひ「文学界」のカラーにとらわれず、斬新な作品に受賞の機会を与えて欲しい。
 とは言っても、文学界12月号の「ぐるぐるまわるすべり台」も、ショッパイ感じがなかなかカッコ悪くていいんだけどね。