ものづくりの国

yosuke0araki2004-03-19

 北海道庁の新人研修のとき、北海道が今後発展していくためにはどうしたらいいか、講師からグループ討議の課題が出された。多くのグループが、農業と観光の振興という回答を導いていた。私は自分の発想の貧困さを棚に上げて、誰でも同じようなことを考えるもんだと歎息していた。
 国内経済においては、比較生産費説にいう北海道農業の優位性はあった。しかし昨今のグローバル化の中で一体化する東アジア全体を見たとき、中国などと比べて優位ではない。
 価格で勝てないなら品質で勝負するという考え方もある。しかし品質の高いものであっても、買う人がいなければ仕方ない。ファーストフードで済ませても、お金を貯めて電化製品を買うというのが、いい悪いはともかくとして、人間の心理には近いのではないか。
 もちろん農業には食糧安全保障や多面的機能があるから相当な保護をしなければならないとは私も考えている。しかし安全保障を考えるなら水やエネルギーについても論じなければならない。多面的機能は農業よりも森林の方が桁外れに大きいし、この議論では家畜の糞尿など農業の外部不経済については指摘されることは少ない。こういうことを考えると、自由貿易の経済性を犠牲にしてまで農業保護を継続するには、紆余曲折があるだろうし、保護頼みの農業に北海道の未来を委ねることはできない。
 農業と比較すると観光はまだマシだ。特に保護策が講じられているわけでもないのに、農業と同じ一兆円の市場規模を持つ。しかし、例えば東京からだと北海道旅行よりもハワイの方が安かったりするという。最近では観光地をただ回るのではない滞在型の観光も見直されており、それは国内観光地にとって順風なのだけれども、人数割合から見れば、同じ時間とお金を掛けるのなら日常により遠い外国へ行きたいと考える人の方が多いのではないか。
 逆に南に広がるアジア諸国からは観光の増加は見込まれるし、それを推進するべきだと思うけれど、去年の夏に目を疑うような新聞記事を見つけた。北海道への来訪者が最多の台湾でSARSが広がったとき、北海道の旅館では台湾人の宿泊を断るという動きに出たのである。こういう行動が、どれだけ北海道の悪イメージを台湾に与えるか考えてのことなのだろうか。こういう近視眼が続くなら北海道観光に未来はない。
 私は北海道ではもっと製造業をのばすべきだと思う。北海道が第二次産業の占める割合が低いのを知っている多くの人には奇妙かもしれないけど。しかし第二次産業が苦手というのは他の都府県との相対的な比較に過ぎず、製造業は雇用数も生産高も圧倒的に農業より大きい。電化製品を中心にさらなる需要の増加が見込まれる中、アジア諸国の中では相対的に高い技術がある。母集団が大きくなったことで、北海道の苦手分野は得意に転じたのに早く気付くべきだ。
 さらに私は千歳に注目している。千歳では水道水に名水百選のナイベツ湧水を利用するなど大変に水のきれいなところだ。浄水は精密機械工業にとって絶対的な要素である。これが国際空港の輸送力、札幌に溢れる労働力と連動することで、IT産業の一大拠点になる可能性がある。