大統領と首相

yosuke0araki2004-05-15

 法学部に在籍中から大統領と首相の相違について友人に質問されることが何度もあった。私の回答は明白である。元首である大統領は、民主的に選出される王様のようなもの。首相(総理大臣)は主席である臣下。だからドイツやフランスのように大統領と首相が並存する体制には、天皇や女王のもとで首相が存在する日本やイギリスと同様に整合性がある。反対に王様と大統領が並存する国家体制を私は知らない。
 もっとも、首相を廃することも可能である。省庁が直属するため、君主の大権は強化される。中国では明の朱元璋が疑獄事件に際して丞相を廃して以降、六部は皇帝の直轄となった。アメリカの大統領制は君臨する大統領の典型である。
 しかし、アメリカとは対照的に君主は儀礼的な役割を求められ、現実の政治は首相を中心に行われる体制の方が多い気がしている。日本もイギリスもドイツも然り。諸行無常・盛者必衰の世界において、国のアイデンティティは君主とともに存続させつつ、首相等が現実を乗り切る、そういう知恵が感じられる。
 王道と覇道ということか。ローマ教皇神聖ローマ皇帝アッバース朝のカリフとセルジューク朝のスルタンなど世界史上も枚挙にいとまがない。これは江戸時代における天皇と将軍の関係にもあてはまる。
 薩長土肥が勝者となったことから、明治維新は尊皇派と佐幕派の対立という枠にはまってしまった。しかし尊王思想の原点が水戸光圀による大日本史であることは、尊王と佐幕が何ら矛盾しないことを象徴している。孝明天皇の信頼は、薩長よりむしろ京都守護職松平容保にあったという。そういう敗者の立場を代弁したものとして、今年の大河ドラマ新撰組は面白く視聴している。
 国家だけの問題ではない。会長と社長の役割分担で混乱している会社もあるのではないだろうか。教育委員長と教育長も然り。こういう問題は個々の組織の事情により解決の方法は多様であろうが、その役割分担が上手くいくかが組織の命運を左右することは間違いない。