北海道のカレーライス

yosuke0araki2004-05-30

 日本におけるカレーライスの始まりは横浜の海軍カレーだというのが定説である。しかし、それよりも少し前に開校した札幌農学校寄宿舎の舎則には、「ライスは食べるべからず、ただしカレーライスは食べてもよい」という意味の一文が盛り込まれている。日本の農業・農学に新風を吹き込もうとしたクラーク先生が、その食生活の改善を図ったということだろう。
 その札幌農学校寄宿舎の伝統を受け継ぐのが北海道大学恵迪寮である。恵迪寮では半年一度の部屋替えの度に新しい仲間と新しい趣旨のもとで生活する。応援団とそのシンパで集まるのもよし。新聞を毎日発行するために集まるのもよし。寮の活動に参加しないという共通項で集まるのもよし。そして、部屋替えごとに成立する人気のジャンルがカレー部屋だ。
 恵迪寮の多くの部屋ではエッセン制という食事当番の持ち回りが行われていることが多いが、カレー部屋ではエッセンのメニューは半年間カレーに固定される。そのカレー、半端なものではない。共同で購入したスパイスは台所いっぱいに並ぶし、そのカレーの味は構成員の辛口の批評に晒される。大学祭や寮祭などでは模擬店を出すことがあるが、これがプロ顔負け。こんな境遇に半年いればどんな味覚音痴でもカレーだけは得意になるだろうという意味では大変な教育機関である。
 そもそもカレーほど北海道に相応しいものはない。肉、野菜など食材のほとんどは道内産を生かせる。カレーにするなら、コシヒカリなどよりもキララの方がよい食感だ。北朝鮮ではたっぷりのキムチをご飯に乗せて食べるそうだが、北海道でもたっぷりのカレーをご飯に乗せて食べるのはいい。

 去年、私は三週間かけてインド亜大陸を放浪した。あちらこちらの街には、カレーやチャイの屋台が散在していたが、そのベタな辛さとベタな甘さは、ゆっくりと時間の流れるインドの世界と驚くほど調和していた。そういうカレーやチャイは北海道には合わない。気候や風土にあった北海道ならではのカレー像を構築することは、経済・文化・生活に幅広い貢献となる。