蝦夷共和国

yosuke0araki2004-07-19

 北方領土問題について国際法では二島返還がおとしどころだと述べたことがある。法的な論理で上手くいかないなら史的な論理で勝負すればいいのだけれど「北方四島は日本固有の領土です」ではどうも弱すぎる。小さな現実に拘らない外交的な戦略が必要になる。
 そもそも19世紀にヨーロッパの列強は世界を分割したが、その植民地のほとんどは二度の大戦後に失われた。唯一、巨大な植民地が残存しているというべきなのはシベリアである。他国と異なり陸続きであったため、どこからどこまでが植民地なのか分かりにくいという事情がシベリアにはある。しかしそれでも、文化圏の境界としてのウラル山脈がある。デンマークグリーンランドのように、先住民族がごく少数の未開の地であれば、いかに広くても支配は許容されるかもしれない。しかし明らかな他文化圏を領有するのであれば、それは植民地でしかない。
 外興安嶺山脈はネルチンスク条約で確定した国境である。黒龍江以北や沿海州をロシアが取得したのはアヘン戦争から太平天国にいたる清国のドサクサに乗じてである。中華人民共和国にはこの地を固有の領土として主張する余地がある。地図を見れば明らかだが、ロシアが外興安嶺山脈以南を手放せば必然的に樺太全島及び南北千島列島を失うことになる。このオホーツクの巨大な海域から見れば四島に汲々するのは小さい。目先の利益にはならないかもしれないけれど、アジアの領土を回復すべく日本と中国が共闘する、そこには大きな可能性がある。
 ただし、この史的正当性を追求する戦略には一つの弱点がある。日本が北海道を実効支配した時期はロシアが沿海州サハリン州を支配したのと大して変わらないということだ。論理構成だけならアイヌのものであった北海道から日本も撤収すべきだということになりかねない。
 名を捨てて実を取る、もしその場に立ち会ったらそういう選択をすべきだろう。アイヌの旧領である北海道とウイルタの旧領である樺太に新国家を樹立する。圧倒的な少数派となったアイヌ人とウイルタ人それに日本人とロシア人が手を携えて、日本でもロシアでもない国を造る。北方領土道州制の問題は、もちろん一気に解決である。榎本武揚土方歳三が夢見た蝦夷共和国、長期的にはこのような掛け橋が日本を北の世界へと導くことになる。

 蝦夷共和国はあまりに破天荒だということは承知している。しかし、なべてこの世は諸行無常・盛者必衰。今世紀末にはどんな世界になっているか誰も想像できない。そんな世に、陳腐な妄想も暖めておけば何かの役に立つかもしれない。