市町村の適正規模

yosuke0araki2004-09-23

 地方自治法は、「地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。」としている。しかし、昭和30年頃から半世紀近く市町村の規模はほとんど不変であった。平成の大合併が軋みながら進みはじめた今日、まず昭和の大合併を振り返りたい。
 町村合併促進法は、「町村はおおむね八千人以上の住民を有するものを標準とし、地勢、人口密度、経済情勢その他の事情に照らし、行政能率を最も高くし、住民の福祉を増進するようにその規模をできるかぎり増大し、これによってその適正化を図るように相互に協力しなければならない。」としていた。これが昭和の大合併の根拠法なのであるが、八千人以上というラインは意外に単純に設定されている。戦後あらたに義務教育となった中学校が一つできるのに適当な規模ということだ。
(教科:学級担任)×学級定員×全人口÷中学生人口=町村人口規模
 9×50×8320万÷532万=7200
 幅を持つ行政の中で、中学校にだけよって数合わせした乱暴な理論だが、単純なだけに力強い。私が問題にしているのは、この公式そのものが破綻しているということだ。平成12年の国勢調査などにより試算すると
 9×40×1億2000万÷400万=1万800
1万人以上のラインを設定しなければならない。
 さらに人口の流動化により、昭和35年には300程度であった人口5000人未満の町村数は、平成12年には700近くに増加している。このような情勢の変化に鑑みれば市町村の規模を見直さなければならないのは明らかである。

 ただし、国際的に見ると日本の市町村の規模は必ずしも小さい方ではない。日本の3000自治体の平均が4万人規模なのに対して、アメリカ・フランス・ドイツ・イタリア・スペインの基礎自治体は1万人を大きく下回る規模である。唯一イギリスは12万人規模であるが、その下部には徴税権を有するパリッシュなるものが存在する。改正地方自治法は、「地縁による団体は、地域的な公共活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」としているが、これはパリッシュをモデルにしたものだろう。こういう底辺の部分をもっと補強しなければ、合併は住民と行政の距離を遠ざけるだけである。

 合併の最も具体的なメリットは財政負荷の軽減である。しかし大きいほど財政が良くなるというものでもない。人口当たり基準財政需要額を最小にする人口規模は27万8000人であり、財政力指数を最大にする人口規模は31万7000人だという試算がある。これは指定都市・中核市特例市などの権限の違いなどを無視したものであるが、合併をすすめる上での一定の指針にはなるのではないか。

 住民自らという理想が先走って、市町村が主体となって合併の議論がすすむ結果、どこと組むのがいいかという地域のエゴが随所に見られるようになった。しかし、この問題はまず自治体を適正規模にしていくということから始まるべきである。ありうべき市町村の形、こういうものを利害関係とは一線を画した立場から理論的に提示していくことが、国あるいは広域自治体の役割だと思う。