BRICs

yosuke0araki2004-11-03

 山本康貴助教授のニュージーランド調査に同行させてもらった2年前のことである。羊の国の土産にと手頃な羊毛製品を探していたぼくは、不可思議なことに気がついた。ニュージーランド土産なのだから、'Made in New Zealand.'の印字のある物が欲しかったのだが、ほとんどの商品に原産地国の表示はなかった。数少ない表示は'Made in China.'。
 考えてみれば当然のことである。人口密度の低いニュージーランドは、土地集約的な農業は得意だけど労働集約的な工業は苦手なのだ。確かに羊毛製品の原料である羊毛はニュージーランドで生産されるけれども、それを加工する製造業は世界の工場と言われるまでになった中国にある。日本人観光客向けに中国で作られたこれらの商品は、売るためだけにニュージーランドまで太平洋を縦断し、のどかな牧場の思い出と供に再び北半球へ渡るのだ。
 グローバル化というのはこういうことかもしれない。しかし資源の有効活用ということを考えるならば、瞬時に世界の情報網を駆け巡るサービスの流れはいざ知らず、物の流れは無駄に大きくなるべきではないと思う。そこに地域圏を考える必要がある。

 さて、BRICsというのは、今世紀の世界経済の主役と嘱望されているブラジル・ロシア・インド・中国の4ヶ国を指す。いずれも冷戦以前は西欧流の資本主義経済の枠外に置かれていたこと、土地・労働力を始めとして産業基盤を支える資源が豊富であること、国連安全保障理事会などで既に政治的・軍事的には大きな力を持っていることなど共通点は多い。
 しかし私は、これらの国が単体で繁栄することは有り得ないと考えている。人口や面積、それに政治力を維持していくためには莫大なコストがかかるのであり、そのコスト故に停滞を余儀なくされた20世紀の構造は基本的には変わらないからだ。これらの国が発展を享受するためには、全く異なる産業構造を持つ国、さらに言うならば20世紀に先進国であった国との関係を軸に貿易の絆を深めなければならない。
 つまりブラジルの北にはアメリカがある。ロシアの西にはEUがある。中国の東には日本と韓国がある。これらの隣国との分業によって、自国の長所を生かした産業構造に経済を移行させることが可能になるのである。そういう意味でのFTAの相手はないのだけれど、インドには英語がある。世界がグローバル化すればするほど、その共通言語としての英語の役割は大きくなり、安価な英語労働者としてのインド人はインターネットなどを媒介に活躍の場を得ることになるだろう。

 BRICsの台頭に対して日本はどのように対応すればいいのだろうか。持つべきなのは、空洞化を恐れない勇気である。例えば、これらの国との貿易自由化により農家や中小企業が痛手を受けるという議論がある。しかし、経営構造の変革を怠っての保護は単なる時間稼ぎでしかない。黒船来航以来、壊滅的になっていた日本の繊維産業が日清日露の頃には主力輸出産業になっていたが、それは世界と比べて日本が比較優位になっている分野に資源をシフトしたから可能だったのである。これは旧産業の立場から見れば空洞化だけれども、新産業の展開のためには避けられないプロセスなのである。
 BRICsの台頭で世界は変わるから、日本の比較優位な分野も変わる。それに、いかに速やかに対応できるかで日本の将来は決まる。