木古内トリック

yosuke0araki2004-11-07

 15時07分というのは檜山支庁職員ならば、誰もが知っている時刻である。八雲でバスに乗り換えるにしろ、五稜郭でJR江差線に乗り継ぐにしろ、この時間に札幌を発車するスーパー北斗に間に合わなければその日のうちに江差へ帰ることはできない。したがって翌日の朝は出勤できない。札幌の本庁で会議などがあっても、それが午後3時を過ぎることになれば必然的に札幌での宿泊を要す。根室も宗谷も帰るのを見送ることになる。
 しかし私はあきらめずに時刻表をたどる。16時52分に札幌発なら22時20分に木古内までなら着ける。19時22分に札幌発なら日付が変わって11分後に木古内終着。そして翌日の木古内始発6時43分で江差7時49分着。自家用車を持っていない私は、実はそうやって札幌での都会的な時間を享受している。8時45分には何食わぬ顔で出勤しているが、木古内のホテル吉澤では常連の扱いになってしまった。
 木古内は、函館と江差の中間地点にあるというだけでなく、青函トンネルの入り口という意味を持つ駅でもある。当然のことながら本州に最も近いこの駅とホテル吉澤を利用することで行動圏は広がる。木古内にその日のうちに帰るのでよければ八戸19時02分発・木古内21時16分着のスーパー白鳥でよく、そのためには東京15時56分発・仙台17時38分発で八戸18時55分着の「はやて」で間に合う。青春18切符、みちのくフリー切符、函館・東京往復切符など割安切符の利用については別稿に譲る。
 このトリックは檜山支庁を基準にしたものだから、江差以外の住人にとって、さほど汎用性があるとは思えない。ただ私が主張したいのは、時刻表から読み取れる多様なトリックを用いれば行動圏が格段に広がるということだ。

 今、大学在学中の冬にスキーでキャンパスを散策したときの不思議な感覚を思い出している。農場も原生林も縦横無尽、大学の敷地内にある寮に住んでいた私は学部までスキーで通学できたのだが、その唯一の障害は除雪された道であった。通常であれば、この細い線を生活に欠かせない動脈か何かのように感じている私にとって、スキーを履いた途端に道は壁に変わる。スキーが私にとっての道と雪原の価値を逆転させたのだ。
 私は自家用車を持っていない。今の時代の若い人が辺鄙なところで車なしとは、よく笑われるけれども、公共交通機関しか移動手段がないからこそ、私は時刻表に長けるようになったのである。車では渡れない津軽海峡を、行動の境界として受け止めず気ままに本州の都会的な時間を享受できるのも、単に私が北陸出身の人間であるということだけではなく、車を持っている人とは別の距離感を持っているからだろう。