通貨¥のゆくえ

yosuke0araki2005-02-20

 今年の元旦、トルコでは旧100万リラを新1リラとするデノミネーションを実施した。これで1リラは約75円となり、ユーロとは1対2程度で取引できることになる。EU加盟を志向するトルコにとって、それを経済面で後押しする決断だったといえる。
 かたやアジアの対極に位置する日本では、紙幣の入れ替えが続けさまに実施されている。まず2000年には首里城門のデザインの2000円紙幣が発行された。そして昨年には1万円・5000円・1000円がデザイン一新、紙幣の顔は新渡戸稲造夏目漱石樋口一葉野口英世に交代した。しかし2000円札は、使い勝手の悪さから5年たった今日でも、日常生活で目にすることはほとんどない。悪貨は良貨を駆逐するというのはグレシャムの法則だけれども、それは金本位制など物的信用に裏打ちされた貨幣社会での事象であり、管理通貨制にあって悪貨は市場から淘汰される存在なのだ。さらに昨年、日本のモノづくりの技術の粋を集めた世界最高水準の新紙幣が発行されたが、駆け込みともいうべき旧紙幣のニセ札が溢れるという皮肉な事態を招いた。もちろんこれは一過性の現象なのであり新紙幣が浸透すればこの混乱は収拾される可能性が高いが、この精緻な発行技術に慢心すれば、日進月歩の不法社会はさらなる混乱を招く。
 成長するのはITのみの構造的な不況の真っ只中にあった2000年に、私は例えば10万円のようなもっと大きな単位の通貨を発行するべきだったと思う。さらに昨年、どうせ全紙幣を一新するならば、どうして貨幣価値そのものを見直さなかったのかという不満がある。
 旧100円を新1円にするデノミネーションを日本が断行した場合、まず景気に与えるプラスの影響がある。消費者マインドはすぐに新通貨に対応できるわけではないのだ。もちろん、そのことは1円単位のきめ細かい価格設定を崩す可能性があるのだが、旧1円イコール新1銭とする補助通貨が当面は対応すればよい。さらに大きいのは世界経済における円の価値の確立である。デノミを実施すれば世界を席捲するドルやユーロと1対1〜1.5で交換することができるようになる。
 さらに日本の通貨は円である必要すらない。ドルとユーロを比較考量した上で機を見て通貨統合すれば巨大な経済圏を構築することになる。世界全体を見ても、そういうキャスチィングボードを握れる位置に日本はいるのだ。もっとも通貨統合は、政府から金融政策の選択肢を奪うという非常に大きな意味を持つものではあるけれども、これまで放漫な赤字財政を展開してきた官界、黒船がなければ自己的な改革を期待できない国民性を考慮してみたい。そうすれば政策の選択肢を手放しても世界経済のイニシアチブを取れるデノミ→通貨統合というのが進むべき道だろう。 
 他方で私が考えているのはエコマネーである。現在のエコマネーは地域づくりの試みとして多数の例が確認できるけれども、どれも本格的なものとは言えない。なぜならば個々の経済圏が広がっていく今日、市町村単位のエコマネーでは生活の需要さえも賄うことができないからである。だがこの弱点を克服してエコマネーが浸透すれば新たな経済単位として経済財政政策の手がかりとなる。そのためには、地域としては北海道とか東北とか、道州規模が必要となろう。三菱・三井・芙蓉などの企業グループのポイント制と行政機関の歳入歳出を組み合わせるなどしてエコマネーの需要と供給の双方を満たすというのが私の思いつきだ。しかし重要なのは方法ではなく、エコマネーの浸透が経済構造を変ええるという一点である。
 通貨統合とエコマネー。一見正反対のような両者も、円の相対化ひいては主権の相対化を図るという意味で目指すものは同じである。国際化と地方分権を同時並行して進めて国家主権を相対化する、そういうこの道はやはり険しいものではあるけれど。