南セントレア市

yosuke0araki2005-03-05

 愛知県知多郡美浜町南知多町の合併については、法定協議会において一旦は新市名が決定したものの全国からの批判の嵐によって撤回。市名は住民投票で決定されることになったものの、合併そのものが否決され、今までの騒ぎは何だったのかということになってしまった。
 市町村合併において、もっともモメるのは自治体名と庁舎所在地のようだ。対等な2団体が合併するときには、歴史や文化の中心になってきた団体が自治体名をとり、経済的に優位にある団体が庁舎所在地をとれば割合うまく話はまとまる。いずれも知多郡であることだし、市役所は美浜に置かれることになったのだし、住民投票で圧倒的に多数を占めたように南知多市にするのが妥当ではあったろう。しかし、セントレアに近い美浜町が発展していく中で両町の力関係は人口以上に開きすぎていた。それを美浜が過信して南知多市になることを拒んだために、市への昇格を含めた合併の利益を享受する機会そのものを失ってしまったのである。
 しかし私は南セントレア市という名称そのものは嫌いではない。名前というのは時間をかけて慣れていくものなのである。かつて大手銀行の合併に伴ってさくら銀行トマト銀行が誕生したときには大きく批判されたけれど、しばらくすると桜のマークは生活に馴染んだものになっていた。今、南セントレア市への批判のされ方が大きければ大きいほど、この地域の人が将来上京して出身地を聞かれたとき「どこそれ?」という肩身の狭くなる反応をされることが少なくなるはずだったとも言える。さらに地域のエゴが目立つ新自治体名が多い中で南セントレア市は、とりあえずルールは守っている。どこでも有名な名称を拝借したいと考えるのは一緒だが、ひどい例は南アルプス市だ。南アルプスは山梨・静岡両県にまたがる一帯の共通の財産であるにも関わらずこういう市名をつけることは、他の自治体に大きな影響を及ぼすことになる。また逆に新市のエリアとは全く縁のない名称をいきなりもってくる自治体もあるが、そういう例に接すると地名は何なのだろうか、A市B市でもいいのではないかとすら考えてしまう。対する南セントレア市、空港所在地がセントレア市になる余地も残しているし、南は海だけだから南南セントレアに遠慮する必要もない。
 それにしても、まとまりかけた合併協議が住民投票によって破談になる例がなんと多いことだろうか。合併促進法では身分に固執する議員の抵抗を阻止するために一定期間の定数保障のような対策を講じているけれども、もっとも大きな抵抗勢力が住民であったことは見誤っていたといってよいだろう。聞こえてくるのは、合併したら役場が遠くなり不便だとか、愛着ある町名が変わるのは嫌だとかばかりで、財政などのメリットと比較考量するという論点が全くといっていいほどない。
 この原因の一つには、行政が説明責任を果たしていないということがある。しかしこの稿でも繰り返し述べているとおり合併は至上命題になっており、分かってくれるまで待つという悠長なことはできない。行政サイドとしては、合併による財政的メリットを計測し、合併しない場合にはそれを補填するために「合併しない税」を法定外に課税するということも時には必要だろう。例えば、所得課税の10ポイント上乗せと合併の2択であったとき、住民はどちらをとるだろうか。破天荒なようではあるが、自治体の現実はもうそこまで深刻なのだ。