観光のくにづくり

yosuke0araki2005-05-07

 北海道において教条的に唱えられるのが「本州と同じ画一的な街づくりではなく北海道の持ち味である農業と観光を生かした地域づくりをしていく」論である。私は農学修士であり旅行業務取扱主任者の有資格者でもあるが、この両者に可能性を見出すことはできない。農業については別稿に譲るとして、魅力的な地域にこそ人が集まるのであり、観光による地域づくりは本末転倒していると思うからだ。しかし、北海道庁は今年度から食と観光のそれぞれについて部長級の参事監ポストを新設した。どうやら道庁を挙げて食と観光に取り組むということの重要性が、財政再建道州制市町村合併といった課題を凌ぐようである。高度集約工業の振興などにより税収を確保するという私の目指す北海道像とは異なるものの、観光への期待が高まる中で少しぐらいは私案を披瀝した方がいいかもしれない。
 まずアシをどうするか。羽田・千歳は世界一の航空路線であるが、全日空日本航空に便数の大半を占められており、その料金は安くはない。数年前にエアドゥが参入したものの毎年の赤字に耐え切れず全日空の傘下に入ったことは、その高料金が構造的なものであることを示している。今や東京において札幌便よりも格安なハワイ便やソウル便のチケットを購入することもできる時代である。そういう中で観光客の目を北海道に向けるためには新幹線が待ち遠しいのであるが、その前提として東北各県との観光ルート面での提携が必要である。つまり航空機と比較して長時間を要する北海道への鉄道の旅の大部分を東北地方が占めているが、ここを単なる通り道としてではなく観光スポットとして捉えれば東北と北海道、一粒で二度美味しい旅行となる。例えば角館・弘前松前の城めぐりならロワール古城めぐりよりもおもしろいだろう。札幌への途上で仙台に立ち寄れば二都市のそれぞれ異なった魅力を感じることができるはずである。北海道は本州とは別という概念を捨てて東北地方との混合プランを提供できれば北海道旅行はもっと豊かになる。鉄道やフェリーでの旅行がもっと楽しくなる。
 そしてマクラをどうするか。地域の独自性ということなら、グリーンツーリズムやブルーツーリズムを振興させようということになるだろう。しかし供給側の都合はともかくとして、果たして道外からの需要があるかどうかは疑わしい。自然に触れたいということと、こぎれいな宿をとりたいというのは、並立する欲求なのだ。他方でバブル期のエイペックスリゾート洞爺のような大型施設にも旅行者は手が出しにくい。今後の旅行者に対するアピールは清潔・安心・安価の三点に尽きるように思える。魅力的な地域において宿がこの三点さえ確保すれば、旅は気ままにすることができる。そして、これらは例えば廃校になった小学校を改装するようなやり方でも提供することができるのだ。知恵と工夫によって低コストで清潔・安全な空間を構築するということが受け入れ側に求められる。
 ここまで東京など本州からの旅行者を念頭においてみたのであるが、北海道内の人や外国人を視野に入れるとき、また別の対応が求められる。特に韓国や中国のようなアジア諸国は、経済成長著しく、これらの国が概ね南方に位置しているため、冷涼な北海道に憧れを持ちやすい。ぜひ近いうちに、その憧れに応えることができる「極東のヨーロッパ」構想を提案したいと思うが、今日は一つだけ、真心をもって旅行サービスを提供すべしということを述べておきたい。台湾からの観光客を当てにしていながら、一度SARSが問題になると無関係な大多数の台湾人をホテルから締め出したのは記憶に新しい。例えばどこかの県で伝染病が発生しても、そういう対応をとることはないであろうに、外国のことであればその国民まるごと拒絶するというのは、内心では優越感をもって外国人に接しているからである。歴史的経緯からアジア世界の人々は、こういう内心には敏感だ。こういう信義にもとる対応を続ければ、どんなに美しい北海道の自然であろうと、その住民を憎んで訪れる人は途絶えるであろうことを念頭において隣人たちを迎え入れたい。