省庁のキャリアシステム

yosuke0araki2005-05-22

 閣議は毎週金曜というのが慣例になっているが、その前日の木曜に事務次官等会議が開催されることになっている。各省の事務次官の他、警察庁長官が参集するため「等」となっているこの会議の招集権者は、内閣官房長官であるが、実質的には事務方の官房副長官が主宰している。内閣官房副長官は政務2人、事務1人。事務担当の副長官には旧内務省系の事務次官経験者が任命されることになっている。そして参集する事務次官の年次の最上位は常に財務事務次官となっている。私の知る限りでも、この会議の首席たる二橋正弘官房副長官と炭谷茂環境次官は富山県高岡高校出身、次席たる細川興一財務次官は県立富山高校出身、谷内正太郎外務次官は県立富山中部高校出身であり、富山県出身者が何故かやたら多い。
例えば、外交官の場合は駐米大使が、検察官の場合は検事総長が最高ポストとされており、外務あるいは法務次官はその通過点でしかない。しかし、次官は各省の大元締めである。大臣や局長と異なり次官はほとんど出張することもなく、省庁の留守を預かる。また、火曜の事務次官等会議を通さずして水曜の閣議に載せられる案件はない。
 しかし、考えてみれば、組織の実質的なトップに職員が上り詰めるというのは、キャリア官僚に限ったことではない。大企業だって、その会長・社長のほとんどが一従業員から出発しているであろうし、われわれ自治体にしても同様である。本社採用か支社採用かが生涯つきまとう企業も多いことだろう。キャリア官僚が他のサラリーマンと比較して特権的なのは、事務次官になれるかもしれないということではなく、むしろそれまでの過程において、政治力を涵養すべく莫大な教育投資がされているというところにある。
 省庁毎に異なるものの一般的には、入省約4年にして係長に発令されて政令の起案を担当することになる。入省約8年にして課長補佐に発令されて法律の起案を担当することになる。本省課長補佐級のうちに在外大使館の一等書記官あるいは地方支部局の課長を経験して、30代のうちに本省課長に昇格する。われわれ北海道職員の場合は最短でも係長昇格は30代後半であるから、国から出向してきた課長が主任など一般職員より年少だということは恒常的にありえる。個人の観点から見れば、これほど理不尽なシステムはない。また年功というだけではなく、実力本位で考えても50代の地方採用職員が30代の中央採用職員に劣るとは考えられない。こういう特権階級を組織内に含むことは、他の職員の志気にもマイナスの影響もあるだろう。
 しかし組織を全体として見たとき中央省庁のキャリアシステムは、組織に普遍的なピラミッド構造に対応しているという一面において非常に有効であると考えられる。つまりいかなる組織においても上級管理者ほど全体に占める比率が低いため、順送り人事を貫徹すると昇任の間隔が上へ行くほど狭くなってしまう。それは一般職員としての経験は豊富であっても、役職者としては日の浅い管理職を輩出することを意味するのだ。一部の職員に管理職として必要な経験を蓄積させ、長期的な教育の後、政治判断を委ねようというのはあながち非合理ではない。
 問題なのは、その一部職員の選別の仕方である。いくら組織論的に合理的であったとしても、個人のレベルでの不公平感は拭えないのであるから、せめてその選別ルールを誰もが納得のいくものにしなければならないのは当然である。その点で、現在のキャリアシステムは国家公務員Ⅰ種試験合格者という枠を持ちながらも、人事院による試験内容の改善を怠り、人物本位の名の下に官庁訪問という不透明な過程において事実上の選別がなされている点において致命的な欠陥をもっている。もちろん藩閥門閥閨閥・学閥など旧時代的な選別の枠組みもそれぞれ欠陥を有している。人が人を選別する基準なんて完璧であろうはずはなく、そのルールづくりは永遠の課題なのかもしれないが。