大地と森と海の科学

yosuke0araki2005-06-12

 わが愛する北海道大学農学部の場合、生物資源科・応用生命科・生物機能化・森林科・畜産科・農業工・農業経済の7学科により構成されている。前三者はかつての、農学科・農業生物学科・農芸化学科であったという。森林・畜産を除く5学科では、同じ農業という対象を物理学・化学・生物学・社会科学などそれぞれの観点から切り開いているのである。いわば5つの目をもって同じものを見るようなもので、立体構造が浮かび上がらぬはずはない。日本文学・東洋史学・西洋哲学などと学問分野ごとに対象が異ならないのは農学の強みである。しいていうならば、農業と林業水産業を一体的に把握する学問分野が今後はより重要になると私は考えている。例えば法律の視点からすると、食料農業農村基本法・森林林業基本法水産基本法の対比や、農業協同組合法森林組合法・漁業協同組合法の対比などがおもしろいかもしれない。数日前に成立した食育基本法は、これらの分野とはなじみの薄かった教育学との融合のチャンスになるかもしれない。
 共通の対象について多様な観点から解き明かすのが農学の魅力だとしても、もちろん、一人の大学生が複数の学科に所属できる可能性は小さい。複眼の醍醐味を味わいたい人には、ぜひ森林科学科を推薦する。農学と比較して林学が軽んじられているゆえではあろうが、それぞれのアプロ−チが研究室単位であるため掛け持ちして学ぶことが可能かつ必須なのである。
 すなわち、砂防学と木材工学の研究室では物理学をベースにしている。森林化学と森林木質化学の研究室では化学をベースにしている。造林学と木材生物学の研究室では生物学をベースにしている。森林政策学と森林施業計画学の研究室では社会科学をベースにしている。マクロ分野の林学科とミクロ分野の林産学科が統合したためそれぞれ複数の研究室が存在するものと思われるが、いずれにしろ森林科学科の学生はこれら全ての分野に触れる機会を得ることができる。もし、このペ−ジを北大森林志望の受験生が見てくれていたならヒトコト、枠の大きさに惑わされて総合系を受験すると森林への道は遠くなりますよ、老婆心ながら。
 ところで北大は他の大学と異なり水産学が学部として位置づけられている。しかし、水産海洋学科は物理学を、海洋生物生産学科は生物学を、海洋生物資源化学科は化学をそれぞれベ−スにしており、その構成は農学部に近似している。旧漁業学科であるところの海洋生産システム学科は工学と経済学の要素を併せ持っているものの、基礎研究ごとに同一の対象を見ているのは農学・林学と同様である。
 中学校・高校で理科を学んだとき、それぞれの科目が一体どういう役に立つのか検討もつかなかった。概論レベルではあるけれども、農学・林学・水産学を一通り履修して始めて私は中等教育における理科の時間がいかに有意義な学習の場であったかに気がついた。学校で寝ぼけて聞き流していたような、受験のためにただ暗記したような定理が、経済的にも大きな価値を有する開発に直結していたりしたのである。もっと年少の段階で農学に触れることができれば、理科を熱心に勉強しただろうなぁと嘆息する今日である。