星〜STARS

yosuke0araki2005-07-03

 ”星って何だか魅力的。犯人だったり俳優だったり。”この寒いギャグは、TV名探偵コナンのオ−プニングである。夜空を見上げ、星の連なりに有名人の顔を連想して、思わず苦笑してしまった。
 月ならば秋こそ見頃だというのは周知の事実である。春から夏にかけては昼夜の温度差や湿度のためにモヤがかかりやすく、冬は寒気のために屋外での観測に不向きなためだ。こういう条件は月と変わらないけれど、秋の星空はうら寂しい。南の一つ星フォマルハウトの他に一等星がないということがその要因だろう。しかし私は秋の空が好きだ。ペガススの四辺形カシオペアのW字は、その形や大きさのために光量以上の存在感を持っている。これらや北極星を目印にアンドロメダペルセウスやケフェウスを探す。天空にエチオピア王家の人々の存在を感じるとき、私は神話と一体になる。
 一転して華やかな冬。ベテルギウスとリゲルと五つの二等星が規則正しく並ぶオリオンは濃密な空間を演出する。オリオンの少し東、ひときわ明るいのがおおいぬ座シリウスである。そこから少し目線を上げるとこいぬ座プロキオン。そして、ふたご座の左右対称な線型がある。カストルポルックスは、ほとんど同じ光を発しながら、片方だけが一等星である。神と人と明暗を分けた双子でもある。ふたご座は、微妙な相違でさえも運命を大きく違えさせるこの世の残酷さを物語っている。そして少し西、天の河の中ほどにぎょしゃ座のカペラが浮かぶ。ぎょしゃ座の主エリウネデスは叡智をもって知られる人物であり武勇のオリオンとは対照的な存在であった。星の中に埋もれるような優美な五角形を仰いで、自らの無知を嘆くことも多い。そして、ちょっと息をつくと牡牛座のアルデバランも含めた星たちに見守られていることに気づく。
 北斗七星から始まるのが春。北斗の柄をずっと伸ばしていくと、うしかい座アルクトウルスとおとめ座のスピカが見つかる。ここから西には、デネボラとレグルスがあるのでしし座だと知ることができる。波照間島ならば南十字やケンタウルスも見れようものだが、春の北海道には人を引きつけてやまないような星座は少ない。しかし、木々の新芽の香りを感じながら純白のスピカを愛でることは、年度の変わり目にある私の心を少しは清らかにしてくれる。
 物哀しい秋、華やかな冬、清らかな春、そして巡り来るのは勇壮なる夏だ。まず天空高く白鳥のはばたく姿を仰ぐことができる。そして白鳥座のデネブと共に夏の大三角形を構成するのが琴座のベガと鷲座のアルタイル。織姫と彦星の和名で知られるこの二星の間には天の河が流れる。どの季節にも見られる天の河も、このあたりはとりわけて幅広く、大きな存在感を与えてくれる。上弦の半月を意味する陰暦の七夕ならば、この河を舟のように渡るのではないかと想像するけれど、未だ見たことはない。さそり座のアンタレスにも目をやらずして、ただただ大三角形に見とれるのが夏の夜である。
 私が星に魅かれるようになったのは99年。星空を仰ぐと、むしろ星そのものより空を仰いでいた私の歩みを感じることも多い。そういう不思議な感触にもっとも近いのは中島美華「STARS」。宇宙のほんの微々たる時間と空間にいる私なのに、STARSの中心にあっては現実存在としての自己を実感することができる。