郵政解散

yosuke0araki2005-08-24

 天皇陛下詔書を奉じて官房長官が議場に入る。詔書は事務総長を経て議長に手渡され、議長が解散を宣言する。総理大臣は一礼し、議員は万歳三唱して続々と議場を後にする。
 郵政関連法案が参議院で否決されたことによる今回の衆議院解散。いつもながら小泉首相の一見唐突なようで緻密に計算された行動に驚かされる。仮に反対派37人が全て刺客と相討ちになり民主党に漁夫の利を得させたとしても、他の現職が当選すれば連立与党の側が過半数を確保できる。しかも首相の有言実行を世論が評価すれば議席の上乗せも見込める。さらに、首相の大きな関心は、来年秋の総裁任期満了だろう。今回、党内の反対派を粛清しておけば、来年の再任にも可能性が開けることになる。こういう計算があるゆえに反対票を投じた37人と棄権者の処遇を理不尽なまでに峻別したのである。
 私は、郵政民営化市場経済に及ぼす影響については肯定的に考えている。なぜならば、郵便局の収益の大半を担っているのは信用事業と共済事業だからである。その意味で郵政公社は一大金融グル−プだといえる。郵政=郵便ではない。バブル崩壊後の都市銀行は合併を繰り返し、三井・三菱・芙蓉という財閥の流れを汲む三つの銀行に集約された。この三大企業グル−プに対抗しうる規模をもつのが郵政公社郵政公社市場経済に開放することにより、四大グル−プの競争は加速するという意義がある。ただ、それならばどうして、会社法の制定を契機として協同組合組織の改革を試みなかったのか。農林中央金庫全国農業協同組合連合会がそれぞれ銀行と商社の立場からグル−プ全体を牽引するという農協の図式は、企業グル−プと類似している。郵便局と共に農協を市場に引き入れることができるならば、それは第5の勢力となり、日本の市場は活性化することができるのに。
 われわれ地方公務員にとって、気がかりなのは民営化後の合理化によって僻地の郵便局がなくなるかもしれないということである。かの大勲位が国営三事業を民営化してNTT・JT・JRを発足させたのと相前後して、北海道の各都市を結ぶ鉄道のほとんどが廃線に追い込まれた。この経験に照らせば、民営化は非常に危険な一歩を踏み出すことかもしれない。しかし、ここで問い直さなければならないのは、郵便局の存在感。郵便局の業務のほとんどはインタ−ネットによって代替できるものであるということである。携帯電話の電子メ−ルによって、瞬時に遠隔地との文字でのコミュニケ−ションができるようになったし、欲しいものがあれば会社のホ−ムペ−ジにアクセスすることで容易に注文することができる。無機質な金融商品であれば特にネットによる不便は少ない。そうであれば将来は、地域における郵便局の役割は今よりも低下するのが必定であり、今の価値観を基準にその役割や合理化のデメリットを論じても栓なきことなのである。

 惜しむらくは解散に至る首相の算段が、国民の方を向いたものではないということである。私は基本的には郵政民営化に賛成であるけれども、郵政はこの国をどうしていくかという方向性の選択とは次元の違う問題だと考えている。首相は、いわゆる抵抗勢力の総論賛成・各論反対という態度を非難しているけれども、その各論によって民意を問う必要がはたしてあったとは、私には思えない。しかし賽は投げられた。投げられたからには、一億有権者の全てが国を憂い、苦悩の上で一票を投じる、そういう選挙になればいいなあと思う。