日独の総選挙

yosuke0araki2005-10-08

 9月11日の総選挙は、与党提出法案の否決に端を発した解散だったにも関わらず、小泉純一郎首相の思惑どおりとなった。連立与党で7割を超える議席を得ただけでなく、いわゆる抵抗勢力の多くは締め出され、代わりに自由民主党は新人議員を多数抱えることになった。これにより小泉首相の求心力は強化される見通しである。これに対して、22日のドイツ総選挙は、左派のシュレーダーと右派のメルケル党首のいずれも過半数議席を確保できず、政権の行方はいまだ不透明なままである。
 このように対照的な選挙結果なのであるが、与野党の得票率には日独でそれほど大きな相違があるわけではない。この選挙結果は国民の意思というよりも、ひとえに選挙制度にのみ帰せられる。日本の衆議院における小選挙区比例代表並立制の場合、議員の総定数480を小選挙区制300と比例代表制180に分けて、それぞれを別個の選挙として同時に行う。これに対して、ドイツ連邦議会(基本定数598)の小選挙区比例代表併用制の場合、総議席数の配分を比例代表で決定する。有権者は299小選挙区で候補者に、比例代表で政党に1票ずつ投票。各党の小選挙区における議席比例代表により決定された議席を上回った場合には超過議席としてそれは確保され、下回った場合には小選挙区における惜敗率の順に当選者が決定していく。
 私は理想論として、ドイツの併用制に惹かれる。そもそも小選挙区は候補者本人を選ぶ制度であり、比例代表は政党の議席数を選ぶ制度なのである。それを日本の並立制は何の理念もなく、相反する二つの制度を数合わせしただけでなく、比例区をブロックに分割することにより地域代表的な意味合いまで持たせようとしている。山口二郎教授の講義によれば、実際のところ特に深い検討の上でこの制度を導入したわけではないということを、93年の連立合意に関与した田中秀征氏が述懐していたそうだ。
 しかし現実として、政治は数の論理で動いているのだから、ドイツの制度は単なる比例代表制に近く、そのことが連立工作など密室での議論に政権を委ねる要因となっているのも確かなようだ。それよりも、無党派層の動向が議席数の変化を増幅して政権を左右する小選挙区制の方がむしろ民意を表現しているのではないかと、今回の選挙では思った。いずれにしろ並立と併用という対照的な制度は、制度枠組みは変えずとも他方の長所を少しずつ取り入れることはできるかもしれない。例えば、日本の制度において最も強い非難の対象になっている重複立候補者の復活当選にしても、単独上位を廃止して全ての重複立候補者を惜敗率で勝負させるなら、より民意に沿った候補者が当選することになる。選挙制度改革は議員の政治生命に直結するだけに、首脳陣の強いリーダーシップがなければ進展しない。求心力を強めた首相にぜひ取り組んでほしい課題である。