株式市場の3人

yosuke0araki2005-12-27

 今年は、日経平均株価が約1.5倍になった日本経済復活の年であると同時に企業買収に揺れた年でもあった。ライブドア日本テレビ買収に始まり、楽天のTBS買収に終わったと言っても過言ではない。去年にはプロ野球参入をめぐって対決した堀江貴文社長と三木谷浩史社長のいずれもがインタ−ネットと放送との融合を掲げて失敗したということは、今の日本経済を象徴している。ネット事業のその本質は新たな金融事業であり、金融の新しい分野を切り開くことはできても、テレビのような多業種に大きな影響を与える分野への参入は、業界ごとの住み分けを脅かすことであり、いまだ許されていないのだ。
 堀江社長三木谷社長、それに阪神電鉄を買収した村上世彰ファンド代表の言動に注目して気づかされることがある。それはこの三人の株式に対する考え方が、いままでの経営者や市井の人とは明らかに異なっているということである。ファンの反発をくらったけれども、阪神タイガ−スを上場しようという村上氏の提案は、彼らの価値観に従えば(私もそれを支持するのだけれど)正論という他はない。株取り引きが資産家の特権だという偏見が、この提案をファンから球団を奪うものだと見誤らさせた。しかし、例えばライブドアの単元株は1000円弱なのであり、株数などの設定の仕方によれば、こういう少額で球団との結びつきを可能にする。そもそも経済的弱者のための組織である協同組合が利用と所有を一致させていることに照らせば、ファンが所有する球団という構図は理想的なものですらある。
 ライブドアが単元株を1000円弱にしていることの効用は資本を庶民にとって身近なものにするということだけではない。先月のライブドア株主総会では、好調な事業にも関わらずゼロ配当を続けることに対して批判が相次いだが、ライブドアに限ってはその論旨は当たっていない。例えば一単元株しか持っていない人であれば、株価が高騰しても売却すればその企業との関わりを断つことになるから、配当代わりに株価が上がっても株主のためという実感は得られない。しかし多数の株を保有しておれば、その一部を売却することで株式の時価総額を変えずに譲渡益を得ることができるのだから、実質的に配当と異なることはない。批判を浴びたこの堀江氏の論理が日本経済に受け入れられるようになれば、市場は革命的な成長を遂げることになろう。
 阪神電鉄に目をつけた村上氏の洞察も、将来の日本には有意義なものだ。常識的な投資の基準は配当の比率にあった。債券における利子と株式における配当を同列にするならば配当を基準にするのは当然であった。しかし債権者とは異なり株主はその企業の資産の所有者なのである。遊休資産を多く持つ伝統ある会社の株式は、そこのところで軽んじられており、成長力のあるベンチャ−企業と比較して、その株価は低位に抑えられてきた。そうした中で、阪神電鉄保有する土地その他に注目した村上氏には卓見という他はない。
 ミニバブルと言われる株式市場は、個人投資家の割合が急増し、今ではニ−トまでができるゲ−ムセンタ−となっている。その市場の象徴的な存在と目されているのが彼らなのだけれども、その一見突飛な行動は新しい市場観や論理に裏打ちされたものであるように思える。賛否いずれにしろ、その価値観の本質を見極めることができれば、そこに大きな商機を得ることができると、一投資家として私は考えている。