中露の接近

yosuke0araki2006-02-26

 一昨年、私はこの稿で世界は三つの経済圏に収斂されるだろうと述べた。すなわちアメリカ・EU・日本という三つの経済圏が、それぞれブラジル・ロシア・中国という新興大国との関係を強めていき、そこへIT技術を通してインドが参画していくという構図である。これは、予測であると同時に、望ましい近未来の青写真でもあった。しかし、それを根本から覆すような、しかも数十年の後には世界大戦にも直結しかねないような、重大な外交関係が台頭しつつある。それは、中露両国の急接近である。
 何を今さらと言う人もいることだろう。中露両国はいずれも冷戦時代は東側陣営にあった国である。いずれも実質的な自由主義化を果たした今日でもかつての親近感が残っていて当然にも見えるからだ。しかし、スターリン批判を端緒とする中ソ論争のために、最近まで両国の関係は良好ではなかった。かつての同門として、連携することが多くなったのは、超大国アメリカが専制の度合いを強めていった9.11の後のことのように感じられる。
 もっとも中露の接近による問題は、さしせまったものではない。両国を合算しても、その経済力はアメリカに遥かに及ばないし、むしろ超大国専制にもの申す勢力があった方が外交的な均衡をとるためには望ましくすらある。しかし、中長期的にみるならば、ユーラシア大陸のかなりの部分を占める勢力が、アメリカ・イギリス・日本などと一線を画したまま経済成長を続けるとすれば、先進諸国の政治的あるいは経済的な選択肢は、かなり限定されることになろう。アメリカ追随による孤立が危惧されるのはイギリスである。イギリスの場合は、フランス・ドイツ・イタリアなどのEU諸国の動向が重要になる。これらの国は、アメリカにもロシアにも是々非々の立場にあるからだ。イギリスはユーロに参加しないなどEUに距離を置いてきたけれども、EUの中でどれだけ大きな役割を占められるかに、今後の展望がかかっている。
 イギリスよりさらに孤立の危機が深刻なのは日本である。冷戦初期と異なって韓国の左傾化が著しい上に、アメリカには橋頭堡として日本を死守しようという意志も能力もない。孤立化を避けるため日本は、ASEANでのリーダーシップを発揮しようとしているけれども、東南アジア諸国とは歴史的に中国との関係が深く容易ではない。そういう外交関係を打開するための格好のステージになりえるのが六ヶ国協議である。なぜならば日本・韓国・中国・ロシア・アメリカという東アジアの主役級の国が揃い踏みする稀有の場だからである。こういう場を、拉致問題だけに歪曲化するというのは、今まで運動を続けてきた家族の人たちに非はないとしても、あまりに外交センスのないやり方である。極端な話、日本政府が被害者遺族への賠償について北朝鮮の肩代わりをしたとしてもいい。だから、政府としては平行線になるような議論はやめて、東アジアにどのような外交関係を構築するか、中露の狭間での孤立状態をどうやって打開するかという大局的な方針を持ってほしい。危機はさしせまってはいないけれど、今をやり過ごせば方向転換はもっと難しくなるかもしれないのだ。