医食同源

yosuke0araki2006-03-21

 土曜から金曜への変更はあったが、午後11時からのNHK韓国ドラマの枠は定着した感がある。私としては、大ヒットした「冬のソナタ」よりも、音楽業界を舞台とした「美しき日々」やカジノを舞台とした「オ−ルイン」の方がおもしろかった。いずれもイ・ビョンヒョン主演であるが、前者においては家族が、後者においては友情が、それぞれ恋愛と並んで主軸を構成しているため、より複雑な人間模様を織りなしていた。
 さて、この枠の第四弾は「宮廷女官チャングムの誓い」である。五十話を超える長編であるという点、朝鮮王朝の時代劇である点、恋愛が主テ−マから外されている点、キャストにトップスタ−の起用をしなかった点などに、真新しい印象がある。チャングムの構成は、料理人として生きる前半と、医者として生きる後半に分けられる。チャングムを視聴して改めて感じられるのは、料理人と医者、食と医がそれぞれ密接に関連しているということである。
 「医食同源」。一語にすることもできるのだが、私がそれを現実に実感したのは大学生の頃だった。北海道大学法学部に所属しながら森林・海洋も含めた第一次産業の幅広い可能性に魅かれていた私が帰省していたときのことである。たまたまサイクリングの途上で、中学校の学区内にある富山医科薬科大学和漢薬資料館に立ち寄ったところ、キハダだとかホヤだとか農林水産学で馴染みのある素材が多く展示されているのを目の当りにした。くすりの富山と第一次産業の北海道がこういうところで結びついているとは思いもよらないことだった。これからの農林水産業は、付加価値を高めるしか生きる道はないのであり、そのためには農林水産業が医薬の観点を持たなければならないと考えるようになった。この考えは、口下手の故もあってか農林水産省官庁訪問では評価されなかったようだけれども。
 郷土富山との新たな出会いからさらに数年が経った。今の私が切に感じるのは医と食を結びつける生物学の普遍的な重要性である。医は人間という生命体の組織論であり、食はその組織外から作用であり、それぞれを生命体のマクロ分析とミクロ分析に置き換えることもできる。20世紀は物理学の世紀であったけれども、21世紀は生物学の世紀になると言われている。その生物学の革新がなければ電気機器などに片寄りがちな民間の資本や人材が、医食にシフトすることはなかろう。そうした意味では、化学賞ではあったけれど、私の富山中部高校の先輩である田中耕一氏が会社員として生物学の明日を切り開く大きな発見をしたということは大きな出来事であると感じている。科学にばかり期待をかけるのは行政にいる人間の無責任さなのかもしれないけれど、生物学の基礎研究にはぜひ頑張ってほしいと思う。