中国経済は本物か

yosuke0araki2007-01-19

 今度の年末年始は中国を旅行した。私が海外旅行をしたいと思い、初めて購入したガイドブックは、1993年の中国のものであった。結局使われなかったその旅行ガイドから幾年、世界はめまぐるしく変わった。そして、私の興味も歴史から経済へと大きく移った。
 去年の中国経済の成果は見事なものであった。21世紀に突入して以来、ずっと経済成長率が10%超というのは驚異的なことである。2倍になるまでの時間は72の商という公式があるから、15年も経てば4倍になり日本を抜き去ってしまう計算だ。BRICsと言うけれど、この成長率は群を抜いている。もっとも誰も、一本調子でこの成長が続くとは思っていない。ベトナムなど、ポストBRICsに投資家の関心が移りつつあるのも、その高所恐怖症の表れだろう。他にも北京五輪後、上海万博後、不動産バブル崩壊など、中国経済失速のキッカケとなるような話題は事欠かず、この成長が本物かどうかは半信半疑の人が多いのではなかろうか。
 私は、実際に中国を旅行して、一つの条件が維持される限り、中国経済底堅いだろうという結論に至った。その条件とは、共産党政権が維持されるということである。共産党政権が、市場経済の守護神であり続ける限り、その潜在能力を引き出すことができるであろうと。
 逆説的な分かりにくい話なので、中国の交差点を渡ろうとしたときのことに譬えてみたい。中国の交差点は、いつも渋滞である。圧倒的に交通量が多いこともあるのだろうが、大きな理由は、皆が信号を守らないからである。自動車も歩行者も、自分勝手に通行するから渋滞し、渋滞だから人は苛立ち、ノロノロ運転の車の隙間を縫って歩き、さらなる渋滞をまねく。それに対して、警察官が手信号で車両の誘導をしている交差点では、信号無視は見られず、さほどの渋滞にもならなかった。市場原理が浸透していない中国で、ジレンマに陥らないような経済を構築するためには、やはりヒトが差配をすることが必要なのだろう。もちろん、警官が通行人の行き先を指定しては行けない。自由にどこにでも行くということを妨げない限り、警官の小うるさい警笛は市民にとって有意義なものである。
 日本の高度経済成長と比較して、中国に特有な事情というのは貧富の格差の大きさである。とりわけ都市戸籍農村戸籍のように人生のスタートラインにおける不平等が大きな問題となる。しかし、仮に戸籍の区別を性急に全廃などすれば、自由は無秩序に変わり、社会は維持できなくなるだろう。いわば、豊かな世界と貧しい世界の境界に共産党の門番が立ち、順番待ちをさせているからこそ、順序良く貧しい世界の人が豊かな世界に入れるのであり、門番がいなくなれば、門に殺到する人のパニックで、通行できる人の数は逆に少なくなるだろう。
 昔、書記長になったばかりのミハイル・ゴルバチョフが、西側の記者から、世界で最も成功している社会主義国はどこかと訊かれて、それは日本だと答えたというエピソードがある。旅行帰りの感覚的な話ばかりで、実証することはできないのだけれど、今の世界でもっとも市場を強力に支えている政権はというと、やはり中国共産党ということになるだろう。中国の最も大きなリスクは、一人っ子政策による急激な高齢化であるけれど、これとて急成長の現状では新世代が旧世代の数倍稼ぐことになるから、押し切りうる。プチバブル崩壊時に中国株を押し目買いして、政権交代により、世界が中国の市場開放へ一段高の期待を持ったとき、全部売却するというのが、私の旅行後の投資方針となった。