川中島の戦い

 NHK大河ドラマは、今週の川中島における山本勘介の討ち死にによりクライマックスに達する。この川中島の戦いこそ、戦国の世に数ある合戦の象徴的な存在であろう。時代の転換点としては、その前年にあった桶狭間の戦い小田原城攻めに大きく劣るものの、前者が今川義元の致命的な失策をついたものであり、後者が堅固な名城を守りきった北条氏康の地味な戦ぶりだったのに対し、川中島では名将の誉れ高い上杉謙信武田信玄が、野戦において息もつかせぬシーソーゲームを演じている。そして、その中で彼らの個性が大きく発揮されているのだから、注目度が高いのも当然だろう。
 しかし実は私は、この戦における両者の采配には懐疑的である。
 まず啄木鳥作戦について。互角の睨み合いにおいて、兵力を二分するのは上策ではない。豊臣秀吉徳川家康が小牧で対峙した際も、豊臣の別働隊が長久手で補足されて本隊の士気も大いに削ぐことになった。川中島の武田方は、有利とはいえ小牧の豊臣に劣る。一万四千と八千に分けて動けば、一万三千の敵方に主導権を握られるのは明白だった。
 次に、武田の啄木鳥を見破りながらの上杉の手。裏をかいたように言われるけれど、本隊と別働隊に合撃されて越後に退却したのだから、ある面では武田の思う壺となったと考えられなくもない。別働隊の存在を予期していたのであれば、暗闇の妻女山を登る敵方を、山に包み込んで殲滅させるべきだった。そうすれば、海津城は孤立無援となり、いずれ本隊も崩壊したことだろう。

 ところで再来年の大河ドラマは、川中島の前年に生まれ、御館の乱から関が原の合戦まで上杉家の存続のために尽力した直江兼続が主役となる。「風林火山」につぐ旗印が「愛」であるというのもおもしろい。近年、前田利家夫妻と山内一豊夫妻を同じコンセプトで描いて相乗効果を得たように、今度は上杉の方から武田や北条をみることができれば面白いかもしれない。