アジア外交

 オバマ上院議員の大統領当選は国内外で好意的に受け止められているようだ。アメリカンドリームを体現したかのような若き指導者の登場により、ブッシュ政権への落胆は期待に変わろうとしている。しかし日米関係にとって、政権交代は必ずしも好ましいものではない。最近では、日米関係が最悪だったのはクリントン政権であり、最も良好だったのがブッシュ政権だった。そしてオバマ次期政権で外交の中軸を担うと目されているバイデンも民主党きっての親中派である。
 いったいどうして政権政党にこのような相違がみられるのか。右の共和党の場合、西側陣営の盟主という立場から、アジアにおいて同じ陣営に属する日本に最も親密感を有することになる。これに対して左の民主党の場合、イデオロギーにこだわらず外交関係全体の底上げを図ろうとするため相対的に日本の比重は軽くなる。そして、米国対中国共産党というような国内政治の軸を脇に置いてアジアの大国となった中国と米国の関係が世界を左右することになる。
 しかし、私は日米同盟そのものをさほど信頼していないので、それもありなんじゃないかと思う。だから中国重視といって、日米競い合って中国詣でをするのも格好がつかない。日米同盟と共に日本外交の基調だった国際連合にしても制度疲労が甚だしく、いざというときわが国の安全を担保できるとは思えない。そうすると誰を頼るかという話になるのだが、私はEUのようなアジア共同体を志向すべきだと考えている。
 アジア諸国の合議体そのものはこれまでも数多くあり、そこでは枠組みにインドを入れるかが大問題になることがあるようだ。インドを入れない東アジアの枠では中国韓国など対日感情の悪い国の存在感が大きくなるため、アジアの大国であるインドを加えることで中国の相対的な発言力を低下させようというのが日本の立場である。しかし、考えてみればEUも最初からヨーロッパ大陸にまたがる大政治経済圏を構築していたわけではない。仏独伊ベネルクスわずか六国でのスタートだった。しかも第二次大戦を最も激しく戦った仏独両国の合意によって決したといってもよいだろう。これにならえば、多少の有利不利は考慮せず日中両国が首脳レベルで主導することによりアジア共同体を構築し、安全保障まで含めた関係としていくのが中長期的にはわが国にとって最も望ましいことである。
 ひるがえって、アメリカである。オバマ新大統領の下で対話重視という方向性を打ち出すものと思われるが、これは合衆国を主役とした中南米諸国の融合に利するものと思われる。反米主義との折り合いさえつけば、米国との協調なしにラテン諸国が世界的な地位を得ることが困難なのは明らかだからだ。アジア・アメリカと徐々に大陸の共同体化がすすむことは経済効率に寄与し、国際社会の安定にもつながる。ただ一つ、ブロック間の対立激化による世界大戦というシナリオを外すための仕掛けづくりには留意しなければならないけれど。