中国ドラマ

 私は3年前の秋頃から、字幕も音声も英語にして映画を見るようになった。そして2年ほどの間に、映画から連続ドラマへ、英語から中国語へ、GEOやTSUTAYAから孔子学院の無料貸出へと重点を変えながらも、語学の学習ツールとしてのテレビの役割はますます大きくなるばかりである。いつしか中国語も英語並みには話せるようになったが、それと同時に数多くの中国ドラマを楽しむことができた。
 中国ドラマといえば、一に台湾ドラマで二に武侠モノが想起される。しかし、ヒットした台湾ドラマの多くが日本の少女漫画を原作としていることもあり、言葉以外は輸入品であるという実感を拭えない。また武侠小説の世界には金庸という大作家がいたからこそ、数多くのドラマを送り出すことができたのであり、それが尽きた後の展望は未だ見えない。そして台湾ドラマと武侠モノを除くと、日本人に馴染みのある作品は激減するが、そこにある作品もなかなか面白い。
 悠久の歴史を誇る中国ゆえに時代劇にはかなりのシェアがあると思われるが、私が第一に奨めるのは「貞観之治(太宗李世民)」である。李世民という一代の偉人が、隋末の戦乱から唐の繁栄を築きあげるまでを描いているが、兄弟の殺害や息子の放逐など彼の影の部分も大きな役割を占めている。むしろヒーローに自然に備わっている明るさが全くなく、陰気さのみがこのドラマの底流にある。しかし、その陰気さで作り上げたのが、中国の歴史上でも空前絶後というべき頂点の時代。その不調和こそが、このドラマの魅力である。貞観之治とは対照的に分かりやすいドラマならば「大漢風」だろうか。漢による天下統一というゴールが見えているだけでなく、韓信の背水の陣など馴染みのある故事が随所にあるので安心して観ることができる。なお、他に「越王句践」や「大清風雲」も観たが、越王が呉王夫差の奴隷となってからや、ドルゴンの入関後の皇太后との関係が冗長すぎて作為的に感じられた。
 明治維新以後の歴史をドラマ化せず、坂の上の雲ですらようやく日の目を見た日本とは違い、中国には、共和制の開始から国共内戦そして文革を素材としたドラマが数多く存在する。その中でも大きな山場になっているのが日本との戦争だろう。この場合、まず確実に日本が敵役になっており、「刀鉾」のような敵意剥き出しの作品には閉口させられるが、「北平往事」は素直に好感を持てる作品である。北平郊外の盧溝橋で日中両軍が衝突した1937年、三人の女学生のそれぞれの運命を辿るという作品だが、ヒロインの韓雪が上品なお嬢様を演じきっている。文化大革命前後で一つ挙げるならば「血色浪漫」。現代中国とは隔絶した感のあるこの時代を理解するまで、かなりの回数を要したが、時代の有するやるせなさや空虚さがひしひしと伝わってくるところは続編ともいうべき「与青春有関的日子」とは大きく異なる。孫儷の軍装は「甜蜜蜜」にはない緊迫感を与えてくれる。
 それでは改革開放により、それまでの時代と全く分断されてしまった中国の現代ドラマにはどのような特徴があるのか。比較的に大きなウエイトを占めるのが、血のつながっていない家族の話である。家族に関係する中国語の語彙の多様さや中国残留孤児の問題を思うだけでも、日本との感覚の違いに気づかされ、また人間として共有する感情に気づかされるのだが、このテーマは別稿に譲りたい。次に多い印象を受けたのは麻薬犯との闘いである。サスペンスは、どこの国にも存在するジャンルだけれども、殺人よりも麻薬を取り上げる志向の背景には、やはりアヘン戦争の苦い経験があるのかもしれない。これらのサスペンスで一押しは「無国界行動」である。雲南でのヘロイン発見をきっかけに中国・アメリカ・タイ・ミャンマーの多国籍グループと警察との駆け引きが始まるのだが、中国警察とアメリカの警察の微妙な関係が、構図を複雑なものにしている。

 札幌大学孔子学院のテレビドラマDVDは視聴済みのものがだいぶ多くなってきた。中国の文化政策の一環として、北京の本部から送られてくるということであるが、再入荷が楽しみである。